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できるところから一つずつ

できるところから一つずつ

2022年

コスモス1月号 (小島ゆかり選)

次々と同級生の訃報来て「あの世は在る」と信じたくなる

信念のあらはれ方の一つとし夫の〈頑固〉を受け容れておく

鴨を兎を栗鼠を見るたび立ち止まり我の散歩の時速は二キロ

エネルギー補給の達人ウルトラマンを羨みながら飲むアミノ酸



コスモス2月号(影山一男選)

百年を超えてもどこも狂はない 祖母の遺しし裁縫箱は

祖母も母も私も記憶されゐるかこの桑の木の裁縫箱に

「雁渡し(傍点)の吹く日は脚が痛くなる」今年の秋の苦き発見

月の出を写真に撮りてセットするズーム会議の背景として



コスモス3月号 (小島ゆかり選)

ショーファー

運転を止めぬ理由に事欠かず 自由が利くし荷も運べるし

いく度も子に諭されて根負けし〈卒運転〉の決定をする

マイカーを孫に譲りぬ〈週四時間祖母のショーファーになる〉のが代価

安全装置のしつかりついた電動車を買つちまおうか 子には内緒で

浴室の換気孔より洩れて来るどこかの部屋のピアノの音が



コスモス4月号 (桑原正紀選)

〈打ち寄せては引きゆく波のイメージ〉とヨガで教はる呼吸のリズム

目裏にハワイの波を浮かべつつ吸気と呼気をととのへてゆく

穏やかな宮城道雄の「春の海」を低く流して瞑想に入る

寒気団にすつぽり包まれ我が町の今朝の気温は零下十五度

ベランダに昨夜置きたる雪うさぎ〈氷うさぎ〉となりてきらめく



コスモス5月号  (影山一男選)

「わかったよ、うるさいなあ」が〈認諾〉の口語訳なり 我の辞書では

橋掛かりの向かうはあの世と教へられ「やるまいぞ」には笑へなくなる

〈彼岸・此岸リモート会〉の夢を見る二十回目の母の命日

中空い白くかがやく満月を護るがごとき七色の暈



コスモス6月号 (小島ゆかり選)

水が出ず電気も来ずとキエフ市の窮状を言ふゼレンスキー氏

「CNタワーが爆撃されたらどう思う?」スピーチの比喩心に迫る
    註 ③ CNタワーは、カナダのオンタリオ州にある通信と観光用の、カナダでは一番高い塔です。

八十歳ウクライナ人のイヴァン氏がポーランドまで行くと言い張る

駅前でウクライナ人の留学生青と黄色の小旗を配る

水仙の咲き揃ひたる花壇にも青と黄色の小旗がならぶ



コスモス7月号 (桑原正紀選)

意外にもふつうのことがむづかしい坐り方とか歩き方とか 

「尾骶骨で坐るな、坐骨で坐れよ」とヨガの先生くりかへし言ふ

長男がシニアクラブに入りたり そんなトシと気づかなかった



コスモス8月号 (影山一男選)

夏休みにラジオ体操せしごとく今日よりひと月朝毎のヨガ

私には意味のまつたくわからないマントラを聞き瞑想に入る

声低くとなへられゐるマントラの祈りのやうな呪ひのやうな

持ち過ぎの自覚はあるが処分せず気に入りばかりのバッグ二十個


コスモス9月号  (小島ゆかり選)

ヘルメットを鉄兜と呼び被りゐし戦地の父の写真が残る

カーキ色、飯盒、ゲートル、鉄兜 どれも昔の父に繋がる

終活の一環としてデータ化す軍服姿の父の写真を

「元気か」と聞かれて「はい」と言ふまでに三秒ほどの休止符が要る

ベランダのブルーベリーに来る雀枝を揺らして花びらを食む


コスモス10月号 (桑原正紀選)

「旅立ちを悲しむなかれ」と詠みし友の訃報が届く六月の朝

さみしさがさざなみのやうにひたひたと寄せて心に届きはじめる

雀、鴉、鴎の声も聞こえ来て無心になれぬ今朝の瞑想

日本にて友がこの世を去りしころカナダに我は菜を洗ひゐき

亡き友に逢ひたくてまた開きたり 放置されたるままのブログを



コスモス11月号 (影山一男選)

病床で音声入力身につけし友より届く短きメール

「安全より自由が欲しい」と書かれあり施設に暮らす友のメールに

ラ変動詞「あり、をり、はべり、いますがり」たつた四語でふんばりてをり

まだ使ふチャンスなかりし〈いますがり〉いつかどこかで使つてみたい 

一語しかなくとも多く使はれる働き者のカ変、下一


コスモス12月号 (桑原正紀選)

午前二時寝ていられずにクイーンの国葬実況中継を見る

ひまはりが萎れて首を垂れる午後穂を輝かせ芒が靡く

長生きの秘訣は何かと訊かれたり「さうか 私は長生きなのか」

今のうちに書き始めむか 夫に子に友らに遺すサンキュー・カード



武蔵野支部歌会

1月 逆上がりも腕立て伏せもできぬ間にうかうかおとな(・・・)になりてしまひぬ

2月 旧友とファーストネームで呼び合へり今の苗字に馴染みきれずに

3月 高井戸の老人クラブで習ひしと「スカイツリー音頭」の動画が届く

4月 手で捏ねてそれでは足らず足で踏む実演中の手打ちそば屋は

5月 ウクライナの役に立ちたい高校生「スラバ・ウクライナ」のシャツを売り出す

6月 池の辺の柳の枝をそよがせる草書のやうな晩春の風

7月 加齢性体力低下にいつよりか「テキトー」が「適当」の同義語となる

9月 何かまだ言ひたきことのあるやうにうつすら残る夕空の虹

10月 「今ならばわかりさうだ」と借りて来るNATOの役目を説く文庫本


11 月 題詠「記憶」
千代紙の矢絣模様に蘇る記憶の中の若き日の母


東京歌会
11月
初投票はキックボードで行くと言ふ十八歳になりたる孫が

12月
抗ガン剤で黒く変色せし爪に友はラメ入りマニキュアを塗る



GUSTS 35 (2022 spring and summer)

moonrise
over the snow-covered
mountain range:
my photo background
for our zoom meeting


stubborn for sure
and selfish sometimes
but I accept these
as an expression of
his “firm belief”


day after day,
I am trying to find
good excuses
to revoke my decision
And keep on driving





GUSTS 36 (2022 fall and winter)

“FREEDOM,
is what I want “
an old man said,
“rather than safety
or healthy food”


In a low voice
she keeps on chanting
mysterious Mantra
over and over, again
as if no end would come



If today was
the last day of my life….
I would like to spend it
just like any other days:
eating, talking and laughing


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